第2部 2年目 財布と会社を整える 第1話
通帳1冊のオーナーに、お金が残らない理由
2年目の最初の朝、銀行で口座を2つ増やした。店・生活・未来。通帳が3冊になっただけで、8年間見えなかった「店の数字」が、初めて見えた。

01 4月1日、銀行の窓口に並んだ
2年目の最初の朝。4月1日、僕は開店前に銀行へ行きました。手には、8年使った通帳が1冊。店の売上も、家のローンも、子どもの学費も、志波ファンドへの300万円も、全部この1冊から出ていきました。通帳の最後のページは、入金と出金が交互に並んで、どれが店でどれが家か、自分でも分かりませんでした。
窓口で言いました。「口座を、2つ増やしたいんです」。係の人に用途を聞かれ、僕は少し恥ずかしそうに答えました。「1つは生活用、1つは未来用です」。係の人は、何も言わずに書類を2枚出してくれました。
1時間後、僕の手には通帳が3冊ありました。店・生活・未来。中身は、ほとんど空です。それでも店に戻る道で、僕は何かが変わった気がしていました。塚ちゃんが店の前で待っていて、「店長、何か買ったんですか」と聞きました。「入れ物を、2つ」。
あなたの通帳は、何冊ですか? 僕は8年間、1冊でした。そして8年間、お金が残りませんでした。
8年間、1冊だった。だから残らなかった。
02 1冊だと、何が見えなくなるか
通帳が1冊だと、3つのことが見えなくなります。1つ目、店がいくら残したか。売上の入金と、家の支払いが同じページに並ぶので、店の利益が見えません。
2つ目、自分がいくら使っていいか。店の支払いが先か、学費が先か。残高を見ながら、その場その場で決めることになります。僕は毎月、月末に青くなっていました。残高が多い週は気が大きくなり、少ない週は仕入れを削る。店の経営が、通帳の気分で動いていました。
3つ目、未来の分がいくらあるか。1冊だと、未来の分は「使わずに残った分」です。でも、残った分は翌月の支払いに吸い込まれていきます。だから、ゼロのままでした。僕は「余ったら未来へ」と8年言い続けて、一度も余りませんでした。
1-7で書いた「使うお金と備えるお金が同じ口座」の話は、ここにつながります。役割の違うお金が1冊に入っていると、役割の強いほうが、弱いほうを食べてしまう。使う側のお金が、いつも勝つ。
強いお金が、弱いお金を食べる。
03 楊さんが描いた、3つの丸

口座を分けると決めたのは、3月の最後の夜でした。楊さんが、ノートに丸を3つ描きました。「店。生活。未来。この3つは、役割が違う。だから、入れ物も分ける」。丸の中に、それぞれ一言ずつ書き足しました。店には「回す」。生活には「暮らす」。未来には「触らない」。
「講座の第3回で教えるんだけどね。お金には、使う・育てる・守る・備えるの4つの役割がある。店の口座は『使う』と『備える(税金)』。生活の口座は『使う』。未来の口座は、まず『守る』、それから『育てる』」。
僕は聞きました。「未来の口座に入れるお金なんて、ありません」。楊さんは笑いました。「最初は空でいい。器が先。器がないから、8年ゼロだったんだよ」。入れ物が1つなら、全部が「今月の分」になる。入れ物が3つなら、入れた瞬間に役割が付く。楊さんはそう説明しました。
「それと、3つの間で決めることが1つある。店から生活へ、毎月同じ日に、同じ額を移す。経営者も、自分に給料日を作るんだ」。
入れ物があるから、入れようと思う。
04 3つの口座の役割を、表にした

答え合わせの表です。店の口座には、売上の入金と、店の支払いと、税金の積み立て。生活の口座には、店から毎月移す決まった額と、家の支払い。未来の口座には、まず生活費6か月分の現金。それが貯まったら、育てる分。
大事なのは、口座ごとに「出していいもの」を決めることです。店の口座から、家のローンは出さない。生活の口座から、薬剤は買わない。未来の口座からは、何も出さない。決まりを破りたくなる日は、来ます。だから最初に、紙に書いて貼っておきました。
僕の場合、店から生活へ移す額は月40万円のままにしました。金額を変えなかったのに、見え方が変わりました。店の口座の残高が、初めて「店の数字」になったからです。店の口座に残っている分が、店が本当に残した分。生活の口座に残っている分が、家が本当に残した分。8年間、分からなかった2つの数字です。
税金の積み立てを店の口座の中で分けて見るのは、楊さんの「会社・生活・納税が1つの財布になっている人が一番危ない」という講座の言葉からです。細かい分け方は、税理士と相談して決めました。
口座ごとに、出していいものを決める。
05 3冊になって、初めて見えた物

3冊になって1か月。初めて見えた物が、3つありました。1つ目、店の口座の残高が、月の途中で増えたり減ったりする波。カード売上の入金日と、家賃の引き落とし日が、波の山と谷でした。波の形が分かると、仕入れの日を山のほうに寄せられます。
2つ目、生活の口座は、月40万円で本当に足りているか。足りていました。ぎりぎりで。足りないと思い込んでいたのは、店の支払いが混ざっていたからでした。
3つ目、未来の口座の残高が、0円のままだということ。何もしなければ、器は空のままです。これが次の話、「先に入れる」につながります。入れ物が空だと、見るたびに少し焦ります。その焦りが、次の一歩を押してくれました。
和子さんが、レジ締めのときに言いました。「店長、最近、月末に顔が青くないですね」。妻は、生活の通帳を自分で記帳するようになりました。「私の通帳みたいで、ちょっといい」。
月末に、顔が青くなくなった。
06 今日やること:店と生活を、まず分ける
今日やることは、1つだけです。店の口座と生活の口座が1つなら、生活の口座を1つ作って、店から移す日と額を決めてください。 序章で「未来」の口座を作った方は、これで3冊になります。
額は、今の取り分のままで構いません。変えるのは金額ではなく、移す日を決めること。毎月同じ日に、同じ額。それだけで、店の通帳が店の数字になります。
口座を分けるだけなら、お金は1円も減りません。手数料のかからない口座を選べば、それで十分です。個人事業の方は、屋号の口座が作れるかを銀行に聞いてみてください。分けた日に、楊さんに言われた一言を書いておきます。「口座を分けるのは節約じゃない。見えるようにすることだよ」。
次の話は、2-2「『余ったら貯金』で、僕は8年ゼロでした」です。空のままの未来の口座に、初めてお金が入ります。
金額ではなく、移す日を決める。
情報元
- 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある(使う・育てる・守る・備える)」「生活費6か月分は現金で」・第14回「会社・生活・納税が1つの財布」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



