第2部 2年目 財布と会社を整える 第2話
「余ったら貯金」で、僕は8年ゼロでした
口座を3つに分けても、未来の口座は0円のまま。楊さんの一言は「余ったら、じゃない。先に入れて、残りで暮らす」。月5万円を給料日に自動で動かした、1年の差。

01 月末の夜、空のまま閉じた通帳
2年目の春でした。口座を3つに分けて、1か月がたった月末の夜。僕は3冊目の通帳、「未来」と名づけた口座の通帳を開きました。
数字は、0円のままでした。店の口座も、生活の口座も、ちゃんと動いている。でも未来の口座には、1円も入っていなかったのです。
理由は、分かっていました。僕は8年間、ずっと同じやり方をしてきました。月末に余ったら、貯金する。給料日に40万円を受け取り、ローンと学費と食費を払い、残ったら入れる。
そして、残った月は一度もありませんでした。開業して8年。貯金は、ほぼ0円。口座を分けただけでは、何も変わっていなかったのです。
家に帰ると、妻は寝ていました。僕は台所で、貯金の瓶を振ってみました。小銭の音が、3回鳴って、止まりました。
「余ったら」は、8年間、一度も来なかった。
あなたの通帳にも、「余ったら入れよう」と決めた口座が、空のまま眠っていませんか?
02 「余ったら」が来ない理由
あとで楊さんに教わったことを、先に書きます。「余ったら貯金」が貯まらないのは、意志が弱いからではありません。順番が逆だからです。
お金は、入った分だけ使い道が見つかります。40万円あれば40万円の暮らしになり、35万円なら35万円の暮らしになる。人は、手元にある額に合わせて生活を組み立てる生き物です。
だから「余ったら」と決めた瞬間、貯金は一番うしろの順番になります。ローンより、学費より、飲み会より、あとです。一番うしろの順番に、お金が届くことは、まずありません。
しかも、毎月「今月は余るかな」と考えること自体が、判断です。判断は、疲れている夜ほど負けます。「今月は仕方ない」と12回言えば、1年が終わります。僕はそれを8回、くり返していました。
講座で楊さんは、これを「余ったら運用ではなく、先に運用に回す」と言います。貯金でも投資でも、順番は同じです。余りを待つ人の口座は、何年たっても余りを待ち続けます。
貯金は、意志の問題ではなく、順番の問題。
03 楊さんの一言「先に、入れる」

その週の木曜日、店の定休日に、楊さんと喫茶店で会いました。僕は、空のままの通帳を見せました。「口座は分けたんですが、入れるお金が余らないんです」。
楊さんは、コーヒーを一口飲んでから言いました。「余ったら、じゃないよ。先に、未来の口座に入れる。残りで暮らす。順番を変えるだけ」。
「でも、5万円引いたら生活が回りません」。僕がそう言うと、楊さんは首を振りました。「去年まで、40万円で回っていなかったでしょう。35万円でも回らないなら、原因はその5万円じゃない」。
痛い言葉でした。でも、本当でした。僕の生活は、40万円でも回っていなかった。足りないのは5万円ではなく、順番だったのです。
楊さんはもう1つ、付け足しました。「投資は、始めるより続けるほうが難しい。続ける一番の方法は、人間の判断を減らすこと。給料日に、自動で動くようにしなさい」。
先に入れて、残りで暮らす。それだけ。
04 「余ったら」と「先に」の、1年の差
楊さんに言われて、僕は紙に書いて比べました。月40万円の取り分で、「余ったら貯金」をした1年と、「先に5万円」を入れた1年です。試算ですが、違いははっきり出ました。

左の「余ったら」は、1年たっても0円です。これは試算ではなく、僕の8年の実績です。右の「先に」は、月5万円を12回で、1年後に60万円。
金額の差より、僕が驚いたのは一番下の行でした。「余ったら」の僕は、毎月「今月は余るか」と12回考えて、12回負けていた。「先に」の僕は、判断の回数が0回です。給料日の朝に自動で動き、僕は何もしない。
講座で楊さんが一番くり返すのが、この「判断を減らす」です。意志の強い人が続くのではなく、判断しなくていい仕組みを作った人が続く。先取りは、我慢ではありませんでした。
もう1つ、表に書いていないことがあります。「余ったら」の僕は、月末に通帳を見るのが嫌いでした。「先に」の僕は、月末に見る必要がありません。見るのは、年に1回でいい。それだけで、お金の話をする夜が、少し穏やかになりました。
判断を減らすほど、お金は続く。
05 給料日の朝、5万円が先に消える仕組み

次の日、僕は銀行で2つのことをしました。1つ目、毎月の給料日に、生活の口座から未来の口座へ5万円が自動で移る設定。2つ目、未来の口座のカードを、財布から抜いて家の引き出しにしまう。
最初の月は、正直、きつかったです。月の後半に財布が軽くなり、コンビニで迷いました。でも2か月目から、35万円の暮らしに体が慣れました。楊さんの言ったとおり、足りなかったのは5万円ではなかったのです。
引き出しにしまったカードは、それから1年、一度も出しませんでした。使えないお金は、ないお金と同じです。ないお金で暮らせるなら、それがその人の本当の生活費です。
3か月目の月末、妻が通帳を見て言いました。「15万円。結婚してから、初めてじゃない?」。妻は、責任を持つのが嫌いな普通の人です。その妻が、通帳を見て笑った。僕には、それが一番うれしかった。
スタッフにも、この話をしました。ナオミさんは「給料日に、子どもの口座に先に移すようにします」と言いました。和子さんは「パート代の1割を先に」と決めました。先取りは、金額ではなく順番の話なので、誰でも始められます。
僕より先に、未来が受け取る。
06 今日やること:給料日の自動振替を、1本だけ
今日やることは、1つだけです。次の給料日に、未来の口座へ自動で移る振替を、1本だけ設定してください。 金額は、5万円でなくて構いません。1万円でも、5,000円でもいい。
大事なのは金額ではなく、「自分の手で入れない」ことです。自分で入れる設定にすると、そこに判断が生まれ、判断は疲れた夜に負けます。銀行の窓口かアプリで、自動の振替を1本。それで、順番が変わります。
次の話は、2-3「自分の給料を上げたら、お金が減った話」です。先取りが回り始めた夏、楊さんに勧められて、僕は店を会社にします。そこで、欲を出しました。
明日の給料日に、先に1本。
情報元
- 講座 第10回「投資は始めるより続けるほうが難しい」「余ったら運用ではなく、先に運用に回す」「人間の判断を減らす」(講義ノートより)
- 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



