第2部 2年目 財布と会社を整える 第4話
節税の裏ワザより先に、やることがあった
節税の裏ワザを検索していた僕に、税理士は「まず3箱を分けましょう」。楊さんの5つの箱で8年分の領収書を分けたら、使っていない物と重なっている物が出てきた。

01 段ボール3箱の領収書
会社にして最初に、税理士から言われたことがあります。「去年までの領収書を、全部持ってきてください」。僕は店の奥の棚から、段ボールを3箱、引っ張り出しました。
中身は、8年分の領収書でした。薬剤の納品書、家族の外食のレシート、よく分からない保険の案内、コンビニの袋に入ったままの束。店の物と自分の物が、混ざったまま積まれていました。
そのころ僕は、夜な夜な「節税の裏ワザ」を検索していました。保険に入ると税金が減る。車を買えば経費になる。会社にしたのだから、賢く税金を減らしたい。そう思って、記事を読みあさっていたのです。
でも税理士は、裏ワザの話を一切しませんでした。「まず、この3箱を分けましょう」。それだけでした。
裏ワザを探す僕の後ろに、3箱の山があった。
あなたの店の奥にも、分けていない領収書の箱が、眠っていませんか?
02 節税のために買うと、お金が減る
あとで分かったことを、一般論として書きます。「節税のために何かを買う」と、たいてい手元のお金は減ります。税金が減る額より、買った物の値段のほうが大きいからです。
たとえば、使わない保険に入って税金が少し減っても、保険料は毎月出ていきます。必要のない車を買って経費にしても、車の代金と維持費は出ていきます。税金という1つの出口を小さくして、別の出口を大きく開けている。
それに、領収書が分かれていない店では、そもそも何が経費で、何が生活費かが分かりません。経費になる物を経費にしていなければ、払わなくていい税金を払っている。逆に、生活費を経費に混ぜていれば、あとで問題になります。
つまり、節税の前にやることは、対策ではなく整理でした。整理をすると、払うべき税金と、払わなくていい税金と、そもそも要らない支出の3つが、分かれて見えてきます。
税金の出口を小さくして、別の出口を広げていた。
03 楊さんの5つの箱

週末、僕は3箱を楊さんの事務所に運びました。楊さんは机の上に、空の箱を5つ並べました。「節税は、対策じゃなくて整理だよ。この5つに、分けていこう」。
1つ目は「店の物」。薬剤、家賃、スタッフの給料、広告。2つ目は「自分の物」。家族の外食、服、家のローン。3つ目は「使っていない物」。4つ目は「重なっている物」。5つ目は「分からない物」。
2時間かけて、8年分を分けました。1つ目と2つ目は、思ったより早く終わりました。時間がかかったのは、3つ目から5つ目でした。
「使っていない物」の箱には、2年前にやめたはずの予約システムの請求が入っていました。解約したつもりで、毎月引き落とされていたのです。「重なっている物」の箱には、同じ目的の保険が2つ。どちらも、柴先生の件のあとに不安で入った物でした。
「分からない物」の箱が、一番重かった。何の支払いか、僕自身が思い出せない物が、数十枚ありました。楊さんは言いました。「この箱の中身が、三平くんの店の、見えていないお金だよ」。
一番重かったのは、「分からない物」の箱だった。
04 整理の5つの箱で、答え合わせ
楊さんの5つの箱を、表にしました。節税の裏ワザは、1つも入っていません。入っているのは、どこに何を入れるかと、入れたら何が分かるか、だけです。

1つ目と2つ目の箱で、店と自分の線が引けます。これが「経費になる物を、きちんと経費にする」の土台です。線が引けていない店では、節税の話をする前の段階で、お金が漏れています。
3つ目と4つ目の箱に、裏ワザより大きい物がありました。使っていない物は、やめれば毎月のお金が戻ります。重なっている物は、1つにまとめれば減ります。どちらも、税金と関係なく、手元に残るお金です。
5つ目の箱は、税理士に聞く箱です。自分で判断しない。「分からない物」を分かったふりで経費にすると、あとで困るのは自分です。楊さんは、この箱だけは必ず専門家に見せなさい、と言いました。
僕がこの日やったのは、3つ目と4つ目の中身を止めただけです。全部の経費を1年分並べて数えるのは、翌年、スタッフと一緒にやることになります。その時に何が出てきたかは、3年目の話で書きます。
節税は、対策より、整理。
05 僕が止めた物と、残した物

翌週、僕は3つのことをしました。使っていない予約システムを、今度こそ解約した。重なっていた保険を、税理士と相談して1つにまとめた。そして、段ボール3箱を、5つのファイルに入れ替えた。
ファイルの背には、箱の名前を書きました。店の物、自分の物、使っていない物、重なっている物、分からない物。これからの領収書は、受け取ったその日に、この5つのどれかに入れることにしました。
和子さんが、ファイルを見て言いました。「社長、これ、私たちも分けていいですか。薬剤の納品書、いつも社長の机に積んでいたので」。それから納品書は、和子さんが「店の物」のファイルに入れてくれるようになりました。
保険をまとめた日、妻がぽつりと言いました。「不安で入った保険って、不安は減らないのね」。そのとおりでした。不安を減らしたのは、保険ではなく、5つの箱でした。
整理が、不安の正体を見せてくれた。
06 今日やること:領収書を、5つに分ける
今日やることは、1つだけです。机の上の領収書を、5つの箱に分けてください。 店/自分/使っていない/重なっている/分からない。箱は、封筒5枚でも、クリアファイル5冊でも構いません。
8年分でなくていい。先月の分だけでいい。分けてみると、たいてい3つ目か4つ目の箱に、1つは入ります。それが、裏ワザより先に見つかる、あなたの店のお金です。5つ目の箱は、次に税理士と会う日に持っていってください。
次の話は、2-5「トラブルは『決めていない』から起きる」です。マリさんの裁判から1年。契約書を作り直したはずの店で、ナオミさんが言えなかったことがありました。
先月の分だけでいい。5つに分ける。
情報元
- 講座 第14回「会社・生活・納税が1つの財布」(講義ノートより)
- 講座 第3回「資産にはそれぞれ役割がある」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



