第3部 3年目 売上より利益。身軽にして現金化 第4話
家が余る時代が来た。あなたの家、売れますか?
通りの12軒のうち3軒が空き家だった。2025年、団塊の世代は全員75歳以上。空き家は約900万戸・13.8%。楊さんは「予想はしない。でも数字は見る」と言った。

01 12軒のうち3軒が、雨戸を閉めていた
日曜の朝、腰のために、家の周りを歩くことにしています。その朝は、いつもと違う物が目に入りました。角の家の雨戸です。閉まったまま、もう2年になります。
向かいの家も、去年おばあさんが施設に入ってから、誰も出入りしていません。庭の草が、塀を越えていました。数えてみると、通りの12軒のうち、3軒が空き家でした。3軒とも、売りに出ている様子はありません。看板も、人の出入りもない。
僕がこの家を買った9年前、通りには子どもの声がしました。今、この通りで一番若いのは、僕の息子です。楊さんに言われた「売った日の値段は、誰にも分からない」が、頭の中で鳴っていました。売れるのか。買う人は、いるのか。
角の家の雨戸は、2年、閉まったままだった。
あなたの家の通りに、空き家は何軒ありますか。数えたことはありますか?
02 家は、人が住む物。人が減れば、家が余る
先に、確かめた数字を書きます。2025年、団塊の世代と呼ばれる人たちが、全員75歳以上になりました。75歳以上の人は、約2,180万人です(厚生労働省の資料)。
そして、空き家です。2023年の調査で、全国の空き家は約900万戸、住宅全体の13.8%でした(総務省「住宅・土地統計調査」)。7軒に1軒です。30年前の1993年は448万戸でしたから、約2倍になりました。これは予想ではありません。もう起きたことです。
家は、人が住む物です。住む人が減れば、家が余る。人が減っても、家はすぐには減りません。家は、人より長く残るからです。余った物の値段は、買いたい人の数で決まる。僕はこの先の家の値段を予想しません。予想できる人は、いないと思います。ただ、統計はこう示している。それだけは、見ておくべきでした。
放っておくと、どうなるか。「その時に売ればいい」と思っていた家が、その時には、買いたい人のいない家になっている。しかも、固定資産税と修繕は、売れるまで止まりません。
家の値段は、買いたい人の数で決まる。
03 楊さんと、空き家の通りを歩いた

楊さんが店に寄ってくれた帰り、僕は家の通りまで一緒に歩いてもらいました。「この通り、空き家が3軒あるんです」。楊さんは、雨戸の閉まった家を見て、聞きました。「三平くんの家を買う人は、誰?」
「……子育て中の人、でしょうか」「その人たちは、この街に、今、何人いる?」。僕は、答えられませんでした。楊さんは続けました。「僕は、家の値段を予想しない。上がるとも、下がるとも言わない。ただ、数字は見る。75歳以上が2,180万人。空き家が900万戸。それを見て、どうするかは、三平くんが決めること」。
「福岡の街なかは、人が増えていますよ」。僕がそう言うと、楊さんはうなずきました。「そう。だから街なかの話は、街なかの数字で見る。三平くんの家は、街なかじゃない。この通りの数字で見る」。
最後に、楊さんは講座でも言っていた言葉を口にしました。「素人は、上がったら買い、下がったら売る」。株の話です。でも、家も同じでした。みんなが買いたがる時は、まだ売れる。買いたい人が減ってから売ろうとしても、遅い。
予想はしない。でも、数字は見る。
04 「家が足りない時代」は、もう終わっている

棒グラフにすると、はっきりします。1993年に448万戸・9.8%だった空き家は、5年ごとの調査のたびに増え、2023年には900万戸・13.8%になりました。1度も減っていません。
僕の親の世代の常識は「家は買えば値上がりする」でした。それは、人が増え、家が足りなかった時代の経験則です。講座で楊さんが言う「先生たちのチャートは経験則」と同じで、経験則は、前提が変わると効かなくなる。家の前提は「人が増える」でした。その前提が、変わりました。
もう一度書きますが、僕はこの先を断定しません。街なかには人が集まる所もあるし、家の値段は場所と築年と、その時の買い手で変わります。ただ、前提が変わった物を、前提が変わる前の常識で持ち続けるのは、こわいことでした。
売れるとも、売れないとも、まだ分かりません。ただ「住む物」だと思っている間は、売れるかどうかを考えもしなかった。統計を見た日、僕は初めて、自分の家を「売る物」として見ました。
前提が変わった物を、昔の常識で持たない。
05 売れるかどうかは、売れるうちにしか分からない

僕は3つのことをしました。1つ目、不動産会社2社に、家の査定を頼みました。売ると決めたわけではありません。今の値段を、知るためです。2つ目、通りの空き家を、紙に書いて数えました。3つ目、市のホームページで「将来の人口」の資料を探しました。10年後、20年後に、この地区の人が増えるか減るか。
妻に3つを見せると、「売るの?」と聞かれました。「まだ決めない。でも、売れるかどうかは、売れるうちにしか分からないから」。妻は、査定の紙をしばらく見ていました。
店で、この話をした時、ナオミさんが言いました。「実家、空き家なんです。母が亡くなってから、誰も住んでなくて。固定資産税だけ、毎年払ってます」。売ろうにも、買い手がつかない場所だそうです。「売れるなら、とっくに売ってます」と、ナオミさんは笑いました。笑うしかない、という笑い方でした。ナオミさんの話は、統計の中の1戸でした。
900万戸の中に、ナオミさんの実家がある。僕の家の通りの3軒がある。そして、何もしなければ、いつか僕の家も、その数に入る。
ナオミさんの実家は、900万戸の中の1戸だった。
06 今日やること:10年後の街の人の数を、1つ知る
今日やることは、1つだけです。自分の市区町村のホームページで「将来の人口」を調べて、10年後に人が増えるか減るかを、1つの数字で知ってください。 「人口ビジョン」「将来推計」という言葉で探すと、だいたい出てきます。
増える街なら、それも大事な情報です。減る街なら、家の値段の前提が変わっている、ということです。どちらでも、知らないよりはずっといい。調べるのに、お金はかかりません。10分で済みます。
次の話は、3-5「夢のマイホーム、老後は雨漏りしてました」です。統計を見た僕より先に、家の未来に気づいたのは、妻でした。
減る街か、増える街か。まず、それを知る。
情報元
- 75歳以上 約2,180万人(2025年・団塊の世代が全員75歳以上) | 厚生労働省の資料
- 空き家 約900万戸・13.8%(2023年) | 総務省「住宅・土地統計調査」(2023年は速報集計)。推移(1993年448万戸・9.8%〜2018年849万戸・13.6%)も同じ調査の各年の数字
- 講座 第11回「先生たちのチャートは経験則」・第2回「素人は上がったら買い、下がったら売る」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



