第3部 3年目 売上より利益。身軽にして現金化 第5話
夢のマイホーム、老後は雨漏りしてました
築9年で初めての雨漏り。バケツを見ながら妻が言った。「私たちが65歳になったら、この家、築30年だよね」。孫と暮らす夢の家は、修繕の家だった。2人で数えた。

01 2階の天井に、しみが広がった夜
6月の、雨の強い夜でした。2階の寝室の天井に、茶色いしみが広がっていました。ぽたり、と音がして、妻が台所からバケツを持ってきました。音は、朝まで止まりませんでした。築9年で、初めての雨漏りです。
翌週、業者に見てもらうと、ベランダの防水の継ぎ目が原因でした。見積もりは、約25万円。僕は「築9年で、もう?」と言いました。業者の人は「10年前後で、どこかは来ますよ」と、当たり前のように言いました。
バケツを見ながら、妻がぽつりと言いました。「ねえ。私たちが65歳になったら、この家、築30年だよね」。妻の夢は、孫と暮らす老後です。庭で孫を遊ばせて、縁側でスイカを食べる。家を買った時から、ずっとそう言っていました。
「その頃、この家、ボロボロじゃない?」。僕は、答えられませんでした。
夢の家の老後に、バケツが置いてあった。
あなたの家は、あなたが65歳になる時、築何年ですか?
02 家の老後は、僕の老後と同じ時に来る
家は、人と同じように年を取ります。外壁と屋根の塗り替えは10〜15年ごと。給湯器も10〜15年で替え時。キッチン・風呂・トイレは20〜25年。築30年を越えると、雨漏り、床のたわみ、シロアリ。順番に来ます。
業者の人の言葉を借りれば、家は「直しながら住む物」です。問題は、直すお金が要る時期でした。僕の家は、僕が65歳の時に築30年。つまり、家の修繕が一番重くなる時期と、僕が店に立てなくなる時期が、同じなのです。
その頃の収入を考えました。僕は長く国民年金でした。国民年金は、満額でも月69,308円です(2025年度・日本年金機構)。夫婦2人で、約14万円。法人にしてからの分を足しても、そこに300万円の水回りの工事が来たら、年金からは出せません。
「その時に考える」。僕は、ずっとそう言ってきました。でも、その時には、考える材料のお金がない。放っておくと、老後の家は、直せない家になります。
直す時期と、働けなくなる時期が、同じだった。
03 妻が、初めて自分から数字を聞いた

翌朝、妻は窓辺に立って、庭を見ていました。「私ね、この家を買った時、孫がこの庭で走ってるのを想像してたの」「うん」「でもさ、その時、私たち70歳でしょ。床、張り替えるお金、ある?」
妻は、責任を持つのが嫌いな、普通の人です。お金の話は「あなたに任せる」と言って、通帳も見ない人でした。この春に家の数字を2人で見ると決めてからも、電卓を叩くのは、いつも僕でした。
その妻が、初めて、自分から聞いたのです。「いくらかかるの。ぜんぶで」。僕は「数えてみよう」と言いました。妻は少し黙って、それから言いました。「数えたくないけど、数える」。
楊さんの言葉を、思い出しました。「家族に見せるお金と、見せないお金を決めなさい」。修繕のお金は、見せるお金でした。妻に見せずに、僕が1人で抱えていたら、妻は孫と庭の夢を、雨漏りの家で見ることになっていました。
数えたくない。でも、2人で数える。
04 築40年までに、約850万円

2人で作った表が、これです。外壁と屋根の塗り替えが2回で約250万円。給湯器が2回で約60万円。キッチン・風呂・トイレの入れ替えで約300万円。床と壁紙、雨漏りと防水、シロアリと外構。築40年までに、合計で約850万円。僕の家の場合の試算で、工事の中身や業者で大きく変わります。
数字そのものより、こわかったのは時期です。表の赤い字は、僕が60代で重なる分。水回りの300万円と、2回目の外壁。合わせて約430万円が、年金の暮らしに入ってから来る計算でした。
前の話で、僕は修繕の積み立てを月2万円と書きました。30年で720万円。850万円に届きません。しかも、その2万円を、僕はまだ1円も置いていなかった。今から置いても、足りない分は別に作るしかない。それを知ったのは、雨漏りのおかげでした。
楊さんが講座で言う「このお金は、5年10年放置できるお金か」は、投資に回す前の問いです。修繕は、その逆でした。5年10年後に、出ていくと決まっているお金。決まって出ていくお金は、先に置くしかない。
赤い字の430万円は、年金の暮らしの中に来る。
05 「持ち続ける前提」を、妻がやめた

表を作ったのは、2人の共同作業でした。妻が、業者のパンフレットから項目を読み上げ、僕が金額を書く。「給湯器って、2回も替えるの?」「10〜15年だから、30年なら2回」。妻は「ふうん」と言いながら、1つずつ、確かめていきました。
合計の850万円を書いた時、妻はしばらく黙っていました。それから、言いました。「ねえ。この家を、持ち続ける前提で考えるの、やめない?」
僕は驚きました。売るとは言っていません。「持ち続ける前提をやめる」。妻は続けました。「孫と暮らす家は、その時に、その時の家を選べばいいんじゃない? 今のこの家に、しがみつかなくても」。
妻は「売ろう」とは言いませんでした。言ったのは、前提をやめよう、です。その違いが、僕には大きかった。家を買った時、僕の中で「家=一生」でした。35年のローンも、そういう物だと思っていた。その「一生」を外したのは、僕ではなく、妻の一言でした。
孫と暮らす家は、その時に選べばいい。
06 今日やること:65歳の年と、家の築年数を並べる
今日やることは、1つだけです。自分が65歳になる年を書いて、その横に、その時の家の築年数を書いてください。 計算は引き算だけです。
築30年を越えているなら、その年に、水回りか外壁のどちらかが来る可能性が高い。それがいくらかは、まだ調べなくて構いません。2つの数字を並べて、同じ時期だと知る。それだけで、僕と妻は、家の見方が変わりました。僕の場合は、65歳で築30年。妻の一言がなければ、この引き算さえしていませんでした。
次の話は、3-6「息子に家を残す。それ、迷惑じゃないですか?」です。妻が「持ち続ける前提」を外したあと、残っていたのは、息子に残すかどうか、でした。
65歳と、築年数。引き算だけで分かる。
情報元
- 国民年金の満額 月69,308円 | 日本年金機構・2025年度
- 講座 第11回「このお金は5年10年放置できるお金か」・第14回「家族に見せるお金と見せないお金」(講義ノートより)
- 修繕の時期と目安の額 | 三平の家の場合の試算(業者の見積もりと一般的な目安をもとに)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



