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この話は、三平の4年目の話です(全体の地図を見る →)

第4部 4年目 要らんことせんの投資 第4話

現金は毎年2%ずつ減ってる。知ってました?

通帳の数字は1円も減っていないのに、買える薬剤の量は減っていた。年2%の物価上昇で1,000万円は20年後に673万円分(試算)。円で買っても中身はドル、の話。

スーパーで、薄い財布と野菜の入ったかごを持つ男の後ろ姿

01 同じ買い物で、1万円を超えた日

4年目の春、薬剤の仕入れ先から1通の案内が届きました。「原材料と為替の影響により、価格を改定します」。カラー剤もパーマ液も、1割近く上がる。僕は請求書を見ながら、ため息をつきました。

同じ週、妻がスーパーから帰ってきて言いました。「同じ物を買っているのに、レシートが1万円を超えるようになった」。買い物かごの中身は、去年と変わっていません。変わったのは、値段だけでした。かごの中身は同じで、払う額だけが増える。それが、僕の家で最初に見えたインフレでした。

そのとき僕の『未来の口座』には、家と車を手放して作った約1,000万円がありました。全部、円。全部、普通預金。通帳の数字は、1年前と1円も減っていません。でも、その1,000万円で買える薬剤の量は、確実に減っていた。

減っていないように見えて、減っている。僕はそれを、通帳ではなく、レシートで知りました。

通帳の数字は減らない。買える量が、減る。

あなたの通帳は、去年と同じ数字で、去年と同じ物が買えていますか?

02 年2%で、20年後には673万円分

物価が上がることを、インフレと言います。日本銀行は『物価が年2%上がる状態』を目標に掲げています。目標どおりに毎年2%上がると、お金で買える物の量はどうなるか。試算してみました。

今の1,000万円で買える物は、5年後には906万円分、10年後には820万円分、20年後には673万円分しか買えなくなります(今の円に直した値)。通帳の数字は1,000万円のまま。減るのは、買える量だけです。物価が上がるとは、同じ1万円札の力が弱くなることでした。札の枚数は同じでも、札の力が落ちる。

預金の利息は、これに追いついていませんでした。少なくとも僕の通帳では、1年分の利息を足しても、薬剤の値上げ1回分に届かなかった。

そしてもう1つ、僕の資産には弱点がありました。全部が円だったことです。円が安くなれば、海外から来る原料は高くなる。薬剤も、ガソリンも、小麦も。この先ずっと円安かは、誰にも分かりません。でも持っている通貨が1つなら、その通貨が安くなった時に、逃げ場がない。

1つの通貨しか持たない人に、逃げ場はない。

03 「円で買っても、中身はドル」

カフェの木の机に、コーヒーと、右下がりの線を描いたノートと眼鏡。2人の男の手元

カフェで楊さんに、仕入れの値上げの話をしました。楊さんは、ノートに右下がりの線を1本引きました。「現金を持っている人は、毎年2%ずつ目減りしている。通貨はね、もともと価値が薄まるようにできている。国が借金をして、お札を刷るから」。

「インフレが3%で、預金の利子が1%なら、差の2%は現金を持っている人が払っている。黙って持っているだけで、払っている」。

僕は聞きました。「じゃあ、ドルを持てばいいんですか。両替の窓口に並ぶんですか」。楊さんは笑いました。「並ばなくていい。円で買ったか、ドルで買ったかは関係ない。最終的に投資している中身が、アメリカの物なのか日本の物なのか。それで影響を受ける。円で買っても、中身がドルの物はある」。

「ドルの資産を持つということは、2つの物を同時に持つこと。1つは通貨。もう1つは、その通貨で買った中身。だから、持つ通貨を1つにしない。ビジネスは集中、投資は分散。通貨も同じ」。

円で買っても、中身がドルなら、ドルを持っている。

04 目減りの図と、分けない6か月分

楊さんの言葉を、僕は図にしました。物価が年2%上がり続けた場合に、1,000万円で買える物の量がどう減るか。

物価が年2%上がった場合の1,000万円の買える量の推移:今1,000万円、5年後906万円、10年後820万円、15年後743万円、20年後673万円、30年後552万円(試算)

20年後の673万円。僕が65歳になる頃です。年金の穴を埋めるために貯めたお金が、何もしなければ3分の1近く、買える量を失っている計算でした。

ただし、楊さんはこう釘を刺しました。「全部を円以外にするな。生活費の6か月分は、円の現金で置いておく。1か月先に使うお金も、円。目減りするのは分かっていて、それでも置く。それが備えというもの」。

目減りを嫌って全部を動かすのではなく、置く分と、動かす分を分ける。守りの現金と、育てるお金は、役割が違う。これは講座 第3回の『資産の役割』そのものでした。

目減りを知った上で、それでも置く分を決める。

05 1,000万円を、紙の上で3つに分けた

朝の美容室の奥の部屋で、ノートパソコンに向かう男の後ろ姿。棚に薬剤の瓶

次の朝、開店前の奥の部屋で、僕は未来の口座の1,000万円を紙の上で3つに分けました。1つ目、生活費の6か月分。これは円の現金のまま。2つ目、この先1年以内に使う予定のお金。これも円のまま。3つ目、5年10年、放置できるお金。

3つ目だけは、『円だけで置かない』と決めました。まだ1円も動かしていません。動かすのは、もう少し学んでからです。でも、方針が1つ決まりました。

妻に話すと、最初の質問はこうでした。「ドルって、空港で両替するやつ?」。僕は楊さんの受け売りで答えました。「並ばなくていい。円で買える物の中に、中身がドルの物がある」。妻は「じゃあ私でもできそう」と言いました。その一言が、5年目につながります。

ナオミさんにも、仕入れの値上げのついでに、この図を見せました。「私の貯金も、減ってるってことですか」。「数字は減ってない。買える量が減ってる」。ナオミさんは、しばらく図を見つめていました。

置く分と、動かす分。方針が1つ決まった。

06 今日やること:通帳に、1本の線を引く

今日やることは、1つだけです。通帳の残高を、『円のまま置く分』と『それ以外』に線を引いて分けてください。 円のまま置く分は、生活費の6か月分と、1年以内に使う予定のお金。残りが『それ以外』です。線を引くのに、電卓は要りません。通帳と、鉛筆1本で足ります。

『それ以外』の額が、あなたの『目減りしていくお金』です。今日は、その額を知るだけで大丈夫です。動かすのは、まだ先。何を学んでから動かすかは、この先の話で順に書きます。

次の話は、4-5「『株は危ない』と教えた人は、誰ですか?」です。『それ以外』を円以外でも持つと決めた僕が、最初にぶつかったのは、父の口ぐせでした。

目減りする額を、まず知る。

情報元

  • 日本銀行「物価安定の目標」 | 消費者物価の前年比上昇率で2%
  • 講座 第8回「為替が資産に与える影響」(円で買ってもドル資産/通貨は価値が薄まる/現金を持つ人が差の2%を払っている)・応用編「現金はインフレで目減りする」・第3回「生活費6か月分は現金」・第13回「ビジネスは集中、投資は分散」(講義ノートより)
  • 試算 | 1,000万円 ÷ 1.02ⁿ(物価が毎年2%上がった場合に、今と同じ物を買える量を今の円に直した値)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)