第4部 4年目 要らんことせんの投資 第9話
100万円預けて、毎年1万5千円が勝手に消える
2年目に銀行の窓口で勧められた「毎月分配」のパンフレット。4年目、楊さんに手数料を教わってから読み直したら、1.5%の重さが見えた。

01 引き出しの奥の、きれいなパンフレット
4年目の春のことです。店の事務机の引き出しを整理していて、一番奥から、きれいなパンフレットが出てきました。2年目に、未来の口座を作りに行った銀行の窓口でもらった物でした。
あの日、窓口の方は、とても丁寧でした。「毎月、お小遣いのように分配金が入りますよ」「人気の商品です」。僕は迷いましたが、その時は120万円しかなく、「また今度」と言って帰りました。
2年ぶりに開いたパンフレットは、相変わらずきれいでした。でも、楊さんの講座を8回聞いたあとの僕は、見る場所が変わっていました。最後のページの、小さな字。信託報酬、年1.5%。そして「毎月分配型」の文字。
僕は電卓を出しました。100万円を預けると、1年で1万5千円。1,000万円なら、15万円。増えても減っても、毎年、勝手に引かれていく。2年前の僕は、この行を読んでいませんでした。読んだのは、表紙の笑顔と「毎月」の文字だけです。
見る場所が変わると、同じ紙が別の物に見える。
あなたの引き出しにも、同じようなパンフレットが眠っていませんか?
02 1.5%は、痛くない。だから長く効く
手数料の怖さは、痛くないことです。志波ファンドのように、ある日お金が消えるわけではない。毎年1.5%ずつ、静かに、休まず出ていく。
講座で教わった数字を書きます。100万円を預けると、年に1万5千円が引かれる。そのうち約4割は、運用した会社ではなく、売った会社の取り分です。窓口の丁寧さは、ここから出ていました。
もう1つ、毎月分配型の話です。毎月もらえる分配金の中には、自分が入れた元本が混ざっていることがあります。自分のお金を配られて、「配当だ」と喜んでいる。講座ではこれを、タコが自分の足を食べる絵にたとえて「タコ足」と呼んでいました。
講座で紹介された例では、ある毎月分配型は、20年で基準価額が7割減っていました。毎月のお小遣いの代わりに、元の木が細くなっていたのです。
僕が「また今度」と言わなければ、2年目の120万円は、この木に入っていました。断った理由は、お金がなかっただけ。知識ではありませんでした。お金ができていた今年、何も学ばずに同じ窓口に行っていたら。僕は、たぶん断れなかったと思います。
痛くないお金ほど、長く出ていく。
03 「窓口の人は、悪くないよ」

僕はパンフレットを持って、楊さんに会いに行きました。カフェの窓際で、僕は少し怒っていました。「これ、ひどくないですか」。
楊さんは、パンフレットを最後まで読んでから言いました。「窓口の人は、悪くないよ。仕組みがそうなっているだけ」。
「有名だから良い商品なんじゃない。売る側の取り分が大きいから、勧められる。それだけのこと。三平くんだって、店で利益の大きいメニューを先に勧めるでしょう」。僕は、何も言えませんでした。
「だから、見る順番を決めておく。商品の名前でも、過去の成績でもなく、最初に手数料。年1.5%なら、長い平均が年10%でも、手元に残るのは8.5%。毎年、利益の15%を渡しているのと同じだよ」。
「市場の平均には、手数料がずっと低い物もある。中身は同じ何百社の平均なのにね」。僕は電卓を持ち直し、その場で20年分を計算し始めました。
楊さんは、もう1つ付け加えました。「毎月分配は、三平くんの店で言えば、売上から毎月お小遣いを抜いて、仕入れを細らせるのと同じ。店は細るのに、気分はいい。そこが怖い」。
商品の名前より先に、手数料の欄を見る。
04 20年で、いくら消えるか
家に帰って、計算を表にしました。100万円を預けて、年1.5%の手数料。元本が1円も増えなくても、20年の合計は30万円です。

もし年5%で育ったとしたら、どうなるか。手数料1.5%の物は、20年で約199万円。手数料0.1%の物なら、約260万円。差は約61万円でした。同じ100万円、同じ20年で、差を生んだのは手数料だけです。
これは僕の試算で、5%は仮定の数字です。毎年ではなく、下がる年もあります。でも手数料だけは、上がる年も下がる年も、同じ割合で引かれる。この一点だけは、仮定ではありませんでした。
61万円は、僕の店で言えば、スタッフ1人の2か月分の給料に近い金額です。それが、小さな字の「1.5」の中に入っていたのです。
手数料が低い物が良い物だ、と言いたいのではありません。言いたいのは、比べる前に手数料を見ないと、比べたことにならない、ということです。
上がる年も下がる年も、引かれる割合は同じ。
05 見る順番を、ノートに書いた

僕がやったのは、3つです。1つ目、パンフレットを捨てずに、「教材」と書いた付せんを貼って引き出しに戻した。見るたびに、1.5%の重さを思い出すためです。
2つ目、金融商品を見るときの順番を、ノートに書きました。手数料(信託報酬)→毎月分配かどうか→中身は何の平均か→売っているのは誰か。名前と過去の成績は、一番最後。
3つ目、妻にパンフレットを見せて、同じ計算を一緒にしました。妻は言いました。「毎月お小遣いって、うれしい言葉だったのにね」。うれしい言葉ほど、先に数字で確かめる。それを、夫婦の決まりにしました。
和子さんにもこの話をしたら、「うちにも似たパンフレットがあります」と笑っていました。誰の引き出しにもある紙なのだと、その時に思いました。
引き出しの紙は、捨てずに教材にした。
06 今日やること:手数料の欄を、1つだけ見る
今日やることは、1つだけです。今持っている投資信託か保険の、「手数料」の欄を1つだけ見てください。 持っていない方は、引き出しのパンフレットで構いません。
見つけたら、100万円あたり年いくらかを計算します。1.5%なら1万5千円。それが20年続くと30万円。数字にした瞬間、その紙はきれいなパンフレットではなく、請求書に見えてきます。
解約するかどうかは、今日は決めなくて大丈夫です。まず、見る。僕は見るまでに2年かかりました。あなたは、今日で済みます。
見たあとで分からないことがあれば、金融庁の登録一覧と、商品の目論見書に戻ってください。パンフレットには載らない数字が、そこにはあります。
次の話は、4-10「震える手で、最初の100万円を入れた日」です。手数料の低い市場の平均に、僕が初めてお金を入れた夜の話です。
まず、見る。決めるのは、見たあとでいい。
情報元
- 講座 第4回「100万円預けると年1.5万円引かれ、約4割は売った会社の取り分」・第7回・第13回「毎月分配型は20年で基準価額7割減(タコ足)」(講義ノートより)
- 20年の試算 | 三平の計算(年5%で増えたと仮定・税金は含まない・毎年複利)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



