第4部 4年目 要らんことせんの投資 第12話
息子には、僕と同じ失敗をさせない
「大学のお金、大丈夫?」17歳の息子の一言から、僕は全部を話した。訴状、志波ファンド、家を売った本当の理由。魚ではなく、釣り方を。

01 「うち、大学のお金、大丈夫?」
4年目の秋、日曜の夕方でした。買い物の帰り道、公園のベンチで息子と並んで座っていると、息子がぽつりと言いました。「うち、大学のお金、大丈夫?」
僕は、息子の前では「順調だ」で通してきました。訴状のことも、志波ファンドのことも、家を売った本当の理由も、話していません。息子には「もっと便利な所に引っ越す」とだけ言ってありました。
でも17歳の息子は、たぶん全部、気づいていました。父親が夜中に電卓を叩いていること。母親が急にパート代の話をするようになったこと。そして、家がなくなったこと。子どもは、親が思うより、ずっと前から見ています。
僕は「大丈夫」と言いかけて、やめました。その言葉を、僕は自分に8年間言い続けて、貯金ゼロになったのです。
「大丈夫」は、僕が8年間、自分に言い続けた言葉だった。
あなたは、子どもに自分の一番大きな失敗を話せますか?
02 教えなければ、同じ順番で学ぶ
放っておくと、どうなるか。息子は僕と同じ順番で学びます。つまり、失敗してから学ぶ。
志波ファンドのような話は、形を変えて、息子の前にも来ます。「先輩の紹介」「月5%」「今だけ」。僕が42歳で引っかかった話に、息子は22歳で引っかかるかもしれない。信頼している人の紹介ほど疑わない、という弱さは、血より強く遺伝する気がしました。そして息子が引っかかる頃、僕はもう、助けに行けないかもしれない。
楊さんの講座の第1回に、こんな言葉がありました。「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」。お金を残すのが魚なら、考え方を渡すのが釣り方です。
僕は息子に、魚を残せるかどうか分かりません。でも釣り方なら、今日から渡せる。親が分かっていれば、子に教えられる。逆に言えば、親が分かっていなければ、家の中では誰も教えないのです。
親が分かっていなければ、誰も教えない。
03 台所のテーブルで、全部話した

その夜、僕は台所のテーブルに、ノートと電卓と、古いパンフレットを並べました。そして、順番に話しました。
マリさんの裁判。名前だけ業務委託にして、裁判所から封筒が来たこと。柴先生の手紙と、志波ファンド。店のお金300万円を持ち出して、全部なくしたこと。家を売ったのは、引っ越しのためではなく、負債だったからだということ。
息子は、最後まで黙って聞いていました。話し終わると、一言だけ言いました。「なんで、言ってくれなかったの」。僕は答えました。「かっこ悪かったから」。息子は、少し笑いました。
それから息子は、「店のお金を持ち出したって、どういうこと」と聞きました。僕は、志波ファンドに入れた300万円が、薬剤の仕入れに使うはずのお金だったことまで話しました。隠す物は、もう何もありませんでした。
それから僕は、楊さんに教わった考え方を、1つずつ話しました。売上と利益と現金は別の物。店の10%と市場の10%は違う。要らんことせん。複利は竹。息子は、電卓を自分のほうに引き寄せて聞いていました。
最後に息子が聞きました。「じゃあ、僕はいつから、何をすればいいの」。僕はその質問に、すぐには答えられませんでした。親と子では、やり方が違うからです。
かっこ悪かったから、言えなかった。
04 親と子で違う、3つのこと
翌週、僕は楊さんに息子の質問をそのまま聞きました。楊さんは「親と子は、やり方が違うよ」と言って、3つを挙げました。

1つ目、持てる時間。僕はあと20年ほど。息子は50年以上。時間がいちばんの味方になるのは、息子のほうです。
2つ目、守りの大きさ。僕は生活費6か月分の現金を先に置き、下がる年に耐える備えが要る。息子は、使う時期が遠く、給料で暮らせる。若いほど守りは少なくてよい、と楊さんは言いました。
3つ目、最初の一歩。僕は100万円でした。息子は月5千円でもいい。金額より、「自動で続く仕組み」を先に作ること。それが、若い人の最初の一歩でした。
僕はこの3つを、息子に渡しました。「同じ物を持つ。でも、持ち方は違う」。息子は「じゃあ僕のほうが有利じゃん」と言いました。そのとおりです。
僕は、この3つを聞いて少し安心しました。息子に、僕と同じ怖さを背負わせなくていい。時間がある人は、守りを軽くして、早く始めればいい。親の失敗を、そのまま子の恐怖にしなくていいのです。
同じ物を持つ。でも、持ち方は違う。
05 発表会に、息子の席ができた

あの夜から、3つのことが変わりました。1つ目、月1回の発表会に、息子の席ができました。店の数字は見せません。家の数字と、未来の口座の数字だけ。息子は毎回、電卓を持ってきます。店の数字を見せないのは、店は僕の仕事であって、息子の資産ではないからです。
2つ目、息子は自分で、口座の作り方を調べ始めました。18歳になったら自分の名前で口座を作り、アルバイト代から月5千円を、自動で入れる。僕は、勧めていません。本人が決めたことです。
3つ目、僕は息子に「失敗の話」を隠すのをやめました。志波ファンドのパンフレットは、今は息子の机の引き出しにあります。「先輩の紹介」が来た時に、見返すためだそうです。
妻は、台所でその様子を見て言いました。「あなたの失敗、初めて役に立ったね」。ひどい言い方ですが、たぶん、そのとおりでした。
僕の失敗が、初めて役に立った。
06 今日やること:一番大きな失敗を、1つ話す
今日やることは、1つだけです。子どもに、あなたの一番大きなお金の失敗を、1つ話してください。 金額は言わなくて構いません。何を信じて、何を失い、何を学んだか。それだけで、釣り方の最初の1ページになります。
子どもがいない方は、店の若いスタッフでも構いません。僕は塚ちゃんにも、同じ話をしました。教える・勧めるまで。やるかどうかは本人が決める。それが、親と店主の線引きです。教えるのは釣り方まで。魚を取ってきてあげることは、しません。
話す前に、少しだけ怖いと思います。僕もそうでした。でも「かっこ悪いから」で黙っていた8年より、話した1時間のほうが、息子に残る物は大きかった。
次の話は、第5部の最初、5-1「『忘れる仕組み』が、いちばん増えた」です。息子に渡した「自動で続く仕組み」を、僕自身も作り直した話です。
黙っていた8年より、話した1時間。
情報元
- 講座 第1回「魚を与えるのではなく、釣り方を教える」・第6回「親と子はやり方が違う。若いほど守りは少なく」・第3回「生活費6か月分は現金」・第13回「知人の紹介は、紹介者にまずメリットがある」(講義ノートより)
※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)



