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この話は、三平の5年目の話です(全体の地図を見る →)

第5部 5年目 回して、つなぐ 第1話

「忘れる仕組み」が、いちばん増えた

5年目の正月、通帳を記入して気づいた。自分で入れた記憶のない口座が、いちばん増えていた。自動積立、NISA、特定口座。口座は「引き出し」。

朝の窓辺。小さな木の引き出し

01 正月、記憶にない入金が12行

5年目の正月、1月4日の朝です。初売りの前に、僕は銀行で未来の口座の通帳を記入しました。1年分、まとめてです。

出てきたのは、同じ日付、同じ金額の入金が12行。僕には、入れた記憶がありません。4年目の夏に設定した自動積立が、毎月25日に、勝手に動いていたのです。

その下に、市場の平均へ回した分の記録。こちらも12回。100万円を入れた夜から、僕が画面を見たのは、月1回の発表会の日だけです。アプリは消したままでした。見なくても動く。見なくても増える。見なくても、減る月もある。それでも12行は、1行も欠けていませんでした。

通帳の最後の行を見て、僕は少し笑いました。4年間で一番増えたのは、僕が一番考えなかった口座でした。

一番増えたのは、一番考えなかった口座だった。

あなたのお金は、あなたが覚えていないと、止まりますか?

02 手で入れる人は、忙しい月に止まる

2年目まで、僕は未来の口座に「手で」入れていました。月末に通帳を見て、振り込む。これが、意外と続かない。

12月は年末で忙しくて飛ばす。3月は薬剤の支払いが重くて半分にする。そして、市場が下がった月は「今は様子を見よう」と止める。素人は上がったら買い、下がったら売る。僕は買うほうでも、同じことをしていました。手で入れていた2年目の入金は、12回のうち8回。4回は、忙しさと迷いに負けています。しかも止めた月に限って、あとで見ると安く入れられた月でした。

楊さんの言葉で言えば、「投資は始めるより続けるほうが難しい」。始めるのは、1回の勇気で済む。続けるのは、毎月の判断がいる。そして毎月の判断は、忙しい美容師には、たぶん無理です。

だから答えは、判断をなくすこと。「人間の判断を減らす」。僕が4年目の夏に設定したのは、その仕組みでした。

続けるには毎月の判断がいる。だから判断をなくす。

03 「口座は、引き出しだよ」

机の上の小さな引き出しを開ける楊さんと、隣に座る三平の後ろ姿

自動積立を設定する前、僕は楊さんに「NISAと特定口座、どっちがいいんですか」と聞いていました。楊さんは答える代わりに、机の上の小さな引き出しを開けました。

「口座は、引き出しだよ。どっちがいい、じゃない。何を、どの引き出しに入れるかを先に決める。三平くんの店の薬剤棚と同じ。カラー剤の棚にパーマ液を混ぜないでしょう」。

「NISAは、国が作った、税金のかからない引き出し。年360万円、生涯1,800万円まで。ここには、長く育てる物を入れる。配当を受け取って使う物は、特定口座の引き出し。税金は、口座の中で勝手に計算される」。

「そして、引き出しに入れる動きは、自動にする。毎月同じ日に、同じ額。三平くんは、設定した日に一度だけ考えて、あとは忘れなさい。見直すのは、年に1回。正月でいい」。

僕が「忘れていいんですか」と聞くと、楊さんは言いました。「忘れる仕組みを作った人だけが、忘れていい」。

忘れていいのは、仕組みを作った人だけ。

04 3つの道具の、役割

家に帰って、楊さんの引き出しの話を、表にしました。道具は3つ。それぞれに、役割が1つ。

続けるための3つの道具と役割の表:自動積立(忘れるための仕組み・毎月同じ日に同じ額・人間の判断を減らす)・NISA(成長する資産の引き出し・値上がりと配当に税金がかからない枠・年360万円・生涯1,800万円)・特定口座(配当を受け取る引き出し・税金は口座の中で自動計算)

自動積立は、忘れるための仕組みです。毎月同じ日に、同じ額が勝手に入る。忙しい月も、下がった月も止まらない。これが、僕の4年目で一番効いた道具でした。

NISAは、成長する資産の引き出しです。値上がりと配当に税金がかからない枠で、2024年からは年360万円、生涯1,800万円まで。僕の場合は、ここに市場の平均を入れています。

特定口座は、配当を受け取る引き出しです。NISAの枠からはみ出た分も、ここへ。税金は口座の中で自動で計算されるので、確定申告の手間が減ります(細かい点は税理士へ)。

どちらが得か、という質問は、僕はもうしません。得かどうかより、役割が分かれているかどうか。役割が分かれていれば、迷う回数が減ります。

3つとも、やることは「最初に1回決める」だけです。決めたあとは、年1回の正月に、表を見直す。それ以外の日は、店に立っていればいい。

最初に1回決めて、年に1回見直す。あとは店に立つ。

05 設定日を、給料日の翌日にした

窓辺の植物に水をやる手元。横に閉じたノートパソコン

正月の発表会で、僕は3つを決め直しました。1つ目、自動積立の日を、役員報酬の振込日の翌日にしました。お金が入った翌日に出ていけば、「余ったら」になりようがありません。

2つ目、妻の口座にも、同じ仕組みを作りました。パート代から月1万円。妻は「私、もう何もしなくていいの?」と聞きました。「何もしなくていい。年に1回、正月にこの表を一緒に見るだけ」。責任を持つのが嫌いな妻にとって、それは一番うれしい答えでした。

3つ目、見直しの日を、1月4日に決めました。通帳を記入して、3つの引き出しの中身を表に書く。増えた減ったで、何かを変えることはしない。変えるのは、入れる額と、生活に変化があった時だけ。

塚ちゃんは、この話を聞いて「水やりみたいですね」と言いました。決まった日に、決まった量。毎日のぞいても、育つ速さは変わらない。たぶん、一番うまいたとえでした。

毎日見ても、早くは育たない。

06 今日やること:入金を1つ、「自動」にする

今日やることは、1つだけです。未来の口座への入金を、1つだけ「自動」にしてください。 銀行の自動振替でも、積立の設定でも構いません。金額は、今の半分でも大丈夫です。

大事なのは金額ではなく、「来月、あなたが忘れていても動くか」です。忘れても動くなら、それは仕組みです。覚えていないと動かないなら、まだ意志です。意志は、忙しい月に負けます。僕は、意志で2年負けて、仕組みで2年続きました。差は根性ではなく、設定の画面1つです。

NISAを使うかどうか、どの引き出しに何を入れるかは、今日は決めなくて構いません。まず、動く仕組みを1つ。引き出しの整理は、そのあとです。

次の話は、5-2「『一発逆転』に心が動いた夜、楊さんが言ったこと」です。忘れる仕組みを作ったはずの僕が、ある動画を見て、要らんことをしそうになった夜の話です。

忘れても動くなら仕組み。覚えていないと動かないなら、意志。

情報元

  • NISA | 年360万円・生涯1,800万円(2024年〜):金融庁「NISAを知る」
  • 講座 第9回・第10回「自動積立」「投資は始めるより続けるほうが難しい」「人間の判断を減らす」・第15回「見直しは年1回」・第2回「素人は上がったら買い、下がったら売る」(講義ノートより)

※ この物語はフィクションです。数字は試算で、将来の結果を約束するものではありません(くわしくは「この連載について」)